2017-01-01から1年間の記事一覧

秩序まで

松沢裕作さんの『自由民権運動』(岩波新書、2016年)です。 戦争のあとには、それまでの社会秩序がこわれ、新しい社会のありようが希求される、戊辰戦争のあとにおきた、新しい社会を求める動きがいわゆる自由民権なのだという意識で、当時の運動にかかわっ…

ちょっとの瑕疵

川村湊さんの『村上春樹はノーベル賞をとれるのか?』(光文社新書、2016年)です。 著者は、毎年のように、ノーベル賞の季節になると、村上春樹がとるのではないかというメディアの期待のために、テレビ局に待機することがあるのだそうですが、そうした経験…

あえて解かない

村上春樹さんの『騎士団長殺し』(新潮社、2冊)です。 ストーリーを紹介すると嫌がる方もいらっしゃるのでしょうが、最低限のことだけは。 中心的な話題の時は21世紀初頭、ゼロ年代後半です。主人公の画家が、妻との関係がうまくいかなくなったので、家を出…

追加

宇宙戦艦ヤマトの新しい映画ができるとかで、ケーブルテレビでアニメ版の一挙放送がおこなわれています。これは、21世紀になってからリメイクされたものなのですが、そこでは、地球を攻めるガミラス帝国は、それ以前にいくつかの星を支配下においているとい…

名目

どこかで、團伊玖磨の『パイプのけむり』シリーズ(朝日新聞出版)が復刊されるとかいう話題を目にした(ちがっていたらごめんなさい)のですが、ふっと思い出したのが、著者は『パイプのけむり』のどこかで、祖父の團琢磨がテロにたおれたことを痛憤をこめ…

残しておく

佐々木元勝(1904−1985)の『野戦郵便旗』(全2冊、現代史出版会、1973年)です。 この方は、1937年から1939年にかけて、野戦郵便局の設営と管理のために、上海から武漢まで日本軍の侵攻とともに行動された方で、その時の記録を、ガリ版刷りで残しておいた(…

イメージ

小山文雄『明治の異才 福地桜痴』(中公新書、1984年)です。 福地桜痴というと、どうしても鷗外の『雁』に出てくる、粋人の先生とか、小松左京の「紙か髪か」の導入部に登場する芸妓のために懐中時計のふたをつぶしてしまった話だとか、そんな印象が最初に…

よくぞ残った

三浦佑之さんの『風土記の世界』(岩波新書、2016年)です。 著者は、風土記は『日本書』の地理志的な意図をもって各国に作成させたという立場に立っているようです。本来、正史としての体裁を整えるべき『日本書』の本紀部分が現行の『日本書紀』にあたり、…

知的であること

阿川弘之『春の城』(新潮文庫、1970年改版、親本は1952年)です。 大学で国文学を学んだ広島出身の主人公が、卒業後海軍に配属され、暗号解読の任務に就きます。本人は戦争末期に中国に派遣されるので、無事復員できたのですが、父親やは被爆しますし、同期…

プライド

木下順二『巨匠』(福武書店、1991年)です。 ポーランドのドラマをきっかけにして書かれた戯曲です。1944年、ワルシャワ蜂起のあとで、ドイツは残党狩りをおこなっています。登場人物たちが避難している学校に、ゲシュタポが訪れ、〈知識人4人〉を銃殺する…

続かなかった

今年のセンター試験の小説は野上弥生子「秋の一日」でした。年譜によれば、1912年1月の『ホトトギス』に掲載されたものだそうです。 たぶん、作者の身辺に取材したものなのでしょうが、長男の素一さん(1910年1月生まれ)が、数え年2歳の秋のこととみれば、…

わくぐみ

木下彪『明治詩話』(岩波文庫、2015年、親本は1943年)です。 明治初期の漢詩隆盛の時代のありようを、当時の詩を多く紹介しながら述べたもので、いわゆる〈近代文学〉のわくからこぼれ落ちた時期の発掘ともいうべきものです。 その中で、文明開化にともな…

月にかわって

『児女英雄伝』(立間祥介訳、平凡社中国古典文学大系、1971年)です。 19世紀半ばごろの作品なのだそうですが、女性ながらに武芸の名手が、危機に陥った名家の息子を助け、その後その男性と結ばれると内助の功を尽くして、彼は科挙に合格して、一家が栄える…