プライド

伊藤信吉『室生犀星』(集英社、2003年)です。
伊藤さんの最晩年の作で、最後は遺稿として残されたものを編集してまとめた部分もあります。
戦時下の犀星の仕事を分析して、詩と小説とのあいだの意識の差をさぐっています。詩は戦争協力とみなされてもしかたのないものを書きながら、小説ではそういうものを避けたというのが考察の結果です。
さて、それも興味深いのですが、戦争詩の関連で、萩原朔太郎のことに触れられています。1937年に、「南京陥落の日に」という題のものを、『朝日新聞』に出したというのです。それを丸山薫に手紙で、「こんな無良心の仕事をしたのは、僕としては生れて始めての事。西條八十の仲間になつたやうで懺悔に耐えない」と書いているのです。
良心にそむくというのも、わからないではないですが、〈西條八十の仲間〉というのが、恥ずかしさになるという感覚にも、朔太郎らしさと、西條八十がどう見られていたかのところがあるようです。