泣かせどころ

講談社から出たアンソロジー『それでも三月は、また』です。
多和田葉子さんや佐伯一麦さん、古川日出男さんや村上龍さんなどが、震災や原発事故に関しての創造をあつめたものです。いろいろと興味深いのですが、そのなかから重松清さんの「おまじない」という作品を。
49歳の主婦の人が小学校4年のとき1年間だけ過ごした海辺のまちが、津波の被害にあいます。その主婦の人は、その街を訪れるのですが、知った顔には会えません。避難所に、当時のクラス写真を貼って、誰かいないかとたずねます。その後、高台の公園で、転校していくとき、友達とそこで「別れてもまた会えるおまじない」をとっさに思いついて、二人で実行したことを思い出すのです。すると、そこに小学生が二人あらわれ、かつて自分が「創作」したおまじないを実行するのです。聞くと、その小学校の伝統として受け継がれているというのですね。そういうストーリーです。
重松さんの作品は、入試問題などでもけっこうお目にかかるのですが、ツボをつくのがうまいという印象があります。ここでも、おまじないの使い方がみごとです。そこの作為を気にする人もいるでしょうが。