当事者

有吉佐和子『海暗』(文藝春秋、1968年)です。
1964年、伊豆諸島の御蔵島に米軍の射爆場が本土から移転するかもしれないという計画がでて、島に防衛庁の調査がはいったが、結局は不適とされたという事件を背景に、島に生きる80歳の老婆とその周辺の人たちの生活を描いた作品です。
きちんとした港がないので、定期船もしばしば欠航する島ですが、1960年代にはいると、テレビも普及して、本土と同じような生活へとうつってゆきます。そうした人たちにとっては、米軍がくることには反対しても、それが未消化のような形で終わってしまうと、いろいろな葛藤がうまれてくるようで、島をでてゆく若夫婦のありかたにも、そうした心の揺れが反応しているようです。
国策と住民の安全とのかねあいは、いつでも問題になるのでしょう。