支配の時間

小川京子さんの『雪上の影』(光陽出版社、民主文学館)です。
作者の体験にもとづく作品が多い短編集なのですが、そのなかで、表題作をはじめいくつかの作品は、日本の敗戦後、朝鮮北部からの引揚げの時期を題材にしています。
この前もテレビでやっていましたが、日本の朝鮮統治は、三・一独立運動を契機に、武断統治から路線を修正して、〈親日派〉育成の方向にシフトを変えていったそうです。朝鮮語の新聞や雑誌がでたり、朝鮮語で教育をする普通学校、高等普通学校(甲子園に出た学校も、一度だけですがありました)を拡充したりしたわけで、その意味では、より巧妙な支配のありかただったともいえるのでしょう。
作者の一家も、いろいろと苦しいことはあったにせよ、一家そろって本土に引揚げることができたわけで、その点が、中国東北の〈開拓団〉とはちがうのかもしれません。作品の中にも、引揚げ途中で、病気のために亡くなる方の話もでてきますが、一方では作者一家を援助する朝鮮人も登場します。
それぞれの体験をもちよることで、当時を立体的に認識してゆく、そうした試みが必要になってくるでしょう。そのとき、こうした作品は、大切な証言となるのです。