裏切り

社会主義の苦悩と新生』(全集・現代世界文学の発見11、学藝書林、1970年)です。
江川卓栗栖継のお二人が編者となって、当時のソ連チェコのいろいろな動きを書いたものを集成しています。
ソビエトロシア関係では、ネクラーソフという作家の、イタリアとアメリカを訪問した記録として、「大洋の両岸にて」という文章が収録されています。イタリアでかれは、いろいろな人と対話します。モスクワの映画祭で賞をとった「裸の島」の話題がでたとき、イタリアの彼は同じ日本映画の監督として、ミゾグチとクロサワの名を出すのですが、ネクラーソフは彼らのことを知りません。さらには、フェリーニチャップリンの最近の作品も観ていないことがわかるのです。イタリア人にとっては、信じ難いことですが、こうした形で文化分野を「管理」したつもりになっていたのが、当時のロシアだったのでしょう。
チェコ関係では、1952年におきた、当時の要人が冤罪のスパイ容疑で逮捕され、処刑された事件の関係者の証言が収められています。どのようにして「供述」がつくられ、法廷で「罪を認め」裁かれるのかが暴露されます。当時の裁判官のインタビューもあり、責任逃れのような答弁が記されています。
いわゆる東側の体制が、そうした「管理」や「冤罪」の上にしか成り立たなかったのだとしたら、それはなんだったというのでしょう。「労働者と農民の国」に希望を抱いていた人たちも、世界中にはたしかにいたのですから。
ただ、そうした体制の真実を明らかにしようとしたのも、その体制を変革したのも、最終的にはそこに暮らす人びとだったことは忘れてはいけません。西から攻めてきたためではないのです。