転回

ヘルタ・ミュラー『狙われたキツネ』(山本浩司訳、三修社、新装版2009年、初版1997年、原本は1992年)です。
昨年のノーベル文学賞作家ですが、日本語訳はこれひとつで、どうも、この作品が映画の原作だかノベライズだかなので、翻訳が出版できたようなのです。
作者は、ドイツ語で書いているのですが、ルーマニア出身で、いわゆる〈東側体制〉の時代に、国を離れることを余儀なくされ、そのままドイツに住んで、創作を続けているようです。
作品は、1989年のルーマニアを舞台にして、独裁政権が倒れる直前の、独裁者が体制維持にきゅうきゅうとしている社会をえがいています。小学校の教師をしている主人公の視点から、そうした社会のおぞましい部分が迫ってきます。その意味で、作品が、独裁体制が倒れるところでおわるのは、ある種の救いを感じて、ほっとするところです。

それにしても、この政権も、最初はある種の理想を抱いて出発したのでしょうし、1968年には、ほかの国に同調せず、チェコスロヴァキアに軍を派遣しなかったということもあったのに、どこで道をはずしてしまうのでしょうか。そこを解明しなければいけないように思います。