初陣

『ショーロホフ短編集』(小野理子訳、光和堂、1981年)です。
角川文庫の『人間の運命』と同じように、初期の短編集『ドン物語』からのセレクションと、スターリン批判のあとに書かれた「人間の運命」とが収録されています。
20代前半で書かれた『ドン物語』は、内戦期のさまざまな生き方が描かれます。作者が多く描いたのは、家族が敵味方にわかれてしまうことからうまれる悲劇のさまです。それを通して、内戦のもたらす悪をみつめます。ソビエト政権を支持する立場の作者ですが、作品はその当時の複雑さを再現しようとしていて、決してソビエト政権を無条件に美化しているわけではありません。そこに、作者の力量をみることは可能です。
『静かなドン』は盗作ではないかと疑われたそうですが、この短編集をきちんと読めば、そんなことはないといってよいのではないでしょうか。かりにもととなる〈何か〉があったとしても、それを作品として結実させる力は、ショーロホフのものです。