暗さのなかに

ドリス・レッシング『一人の男と二人の女』(行方昭夫訳、福武文庫、1990年)です。
文庫編集の短編集で、1950年代から60年代の作品が中心です。タイトルはその中のひとつの作品のタイトルですが、ここに収録されたほかの作品も、同じような材料をあつかっています。
レッシングの本は、彼女がノーベル賞をとったあとに復刊されたアフガニスタンものをよんで、期待はずれだったと以前ここで書きましたが、今回、この短編集を読むと、この人は小説で考えるべき人だという感じがします。
一人の男を複数の女性が〈共有〉する話が多いのですが、「陰の女」という作品では、ロンドン空襲で家族を失いひとりぼっちになった女性が、そのとき助けてくれた男性とつきあうようになる。けれども、その男は、すでに妻がいて、なおかつその妻とは、別の女に手を出したとかどうとかで、実質結婚生活の体をなしていない、という、ある意味ぐちゃぐちゃな状態なのですが、そこで、おとこにすがらず、妻と空襲被害者女性とが、新しい人生にあゆみだす、というものです。
そうした強さを持った女性を描く作者は、やはりさすがなものだと思います。