パンデミック

なんとなくですが、中央公論社版『日本の文学』の志賀直哉の巻(1967年)をよみすすめています。
短編や随筆をあつめた巻で、「灰色の月」は載っていないのですが、けっこう幅広く収めています。
そのなかに、「雪の遠足」という作品があります。我孫子に住んでいたときの経験をもとに書いたものです。布施の弁天にいくのですが、その途中で、秋に彼の家に仕事に来ていた植木屋の家を通ります。ところが、その家はひっそりと静まりかえっています。近所のひとに聞くと、昨秋から〈流感〉にかかって、歳末に亡くなったというのです。どうも主人公が罹患したものをうつされたようなのです。
いわゆる〈スペイン風邪〉が日本に与えた影響のひとつが、さりげなくここにあらわれています。そういえば、ここには収録されていませんが、それこそずばり、「流行感冒」という作品も、志賀直哉にはありました。
横光利一にも、中学時代にほのかな思慕を抱いていた女学生が、やはり〈スペイン風邪〉で亡くなる「雪解」という作品もありますし、こうしたものを拾い上げていくならば、けっこう出てくるような気がします。