きわめる

日本思想大系の『近世芸道論』(西山松之助ほか校注、1972年)をちまちま進めています。とりあえず、茶・花・香の部分を終わって、その段についての解説(西山執筆)もみているのですが、江戸時代の身分制度を「破る」ものとしての「芸道」という視点が重要なのだというところなのでしょう。相撲のように、実力があればどんな身分の出であっても、士分待遇としてどこかの藩のお抱え力士となることができるというのも、その一例といえるのでしょう。もちろん、それは身分制度を打破するものではないのですが、そうした「穴」が存在したことも忘れてはいけないのでしょう。
加藤周一の『羊の歌』の中で、横光利一が一高を訪れたとき、日本の伝統についてとうとうと語ったのに対して、ある学生が「化政の江戸」と問いかけたら横光が激怒したというエピソードがありましたが、道を極めることへの力のいれかたという点では、「化政の江戸」は、たしかに日本の伝統であるでしょう。そういうことも含めて、今の「伝統」を声高に語る人たちは承知しているのかどうか。