思考実験

岩波文庫の、『鬼貫句選・独ごと』(復本一郎校注、2010年)です。
芭蕉より少し年下の俳人、上島鬼貫(1661−1738)の文集です。〈冬はまた夏がましじゃといひにけり〉の句を詠んだ人だったのですね。ほかにも、へえ、これがこの人の作品かというようなものもありました。
句のほかにおもしろいのは、「禁足旅記」といって、大坂から江戸へ下る旅行記なのですが、実際に作者は家を出ずに、この紀行文をもっともらしく書いたというのです。当時は東海道を舞台にした作品も多くありましたし、名所案内記のたぐいもあらわれてきたので、こうした〈お遊び〉もできたのでしょう。今のように、変遷の激しい時代には考えられないことです。
江戸時代の持つ、そうしたゆとりの感覚は、見ておかなければいけないのでしょう。