『朝鮮幻想小説傑作集』(白水Uブックス、1990年、金学烈・高演義編)です。
20世紀の朝鮮語で書かれた作品で、幻想的と思われるものを選んでいます。大韓帝国末期の作品から、ソウルオリンピックのあとの作品までと、この1世紀の朝鮮半島のあれこれも考えさせられます。
大韓帝国から日本支配時代の作品では、動物とか、龍とかにことよせて、現世を批判するものが多く、幻想というより風刺の意味合いが強くなっています。最後に収められた、崔一男という作家の「夢路と言葉路」は、南北両方の作家がひとりずつ軍事境界線上で酒を酌み交わしながら文学論を語るという内容で、けんか腰にもならずに、話がはずむのです。
〈幻想〉というかたちは、ある種の批判精神からうまれるものですから、共和国の現在を語る作品がないのはしかたのないことかもしれません。けれども、こうした本を企画した関係者のかたには敬意を表したいと思います。
でも、この本、新刊書のたなに、3%消費税の時代のカバーとスリップのまま売られていたのです。20年間、重版もかからず、カバーの改定もされずにきたのですね。(小口はきれいに紙やすりがかかっているので、何度か出荷されなおしてはいるようです)