ひと世代

社会思想社が出していた現代教養文庫の『江戸の戯作絵本』(全6冊、正編4冊・続編2冊、1980年から85年)を、ときどき順繰りに読んでいたのですが、正編4冊まで進みました。
江戸時代のよみもの、黄表紙を集めたものです。説明によれば、黄表紙といわれるのは、1775年から1806年までの間に、5丁10ページを1冊に綴じ、それを2から3冊で一つのストーリーとして完結させるものを指すそうです。その意味では、きわめて限られた期間の作品であるといえるのでしょう。内容は、おとなむけの笑い話といった趣ですが、そこに社会への風刺がこめられているというのが知られています。
それでも、正編4冊で発生から終焉(形式はもっと長いストーリーの、合巻と呼ばれるものに発展していきます)までみると、いろいろな移り変わりがみてとれます。
作者の問題もその一つで、最初は武家の人が勤務の余暇に書いていたものが、だんだんと職業戯作者の手になるものに変わります。曲亭馬琴式亭三馬十返舎一九という名前が、作者の中にあらわれます。それだけ、出版界がにぎやかになってきたことを示すのでしょう。けれども、それだけ、社会風刺の〈毒〉は薄くなります。商売としての側面が強くなると、仕方のないことでしょうか。その点では、200年後の今日にも、通じるものがあるかもしれません。