脚色

坂の上の雲』の話、少し続けます。
ドラマが、真之を中心に描くことは、はたして原作の意図を生かせるのかということも、考えたほうがいいかもしれません。とはいっても、それこそ30年間読み直していない作品の記憶でものをいうのもなんですが、たしか、単行本(文藝春秋、全6冊)には、「あとがき」がついている巻があって、その中で、司馬さんは陸軍を相当批判していたような記憶があるのです。参謀本部の編んだ『日露戦史』は役立たずだとか、徳冨蘆花の『宿生木』には、陸軍の序列主義がよく出ているとか(その記憶があったので、1980年代の中ごろに岩波文庫で『宿生木』が復刊されたとき読んでみておもしろくなかったこともありましたが)、けっこう陸軍は批判されていたような感じがありました。
作中でも、旅順攻撃の乃木将軍と伊地知参謀は無能だとか、ほかにも陸軍の中に、近代戦争に無頓着なものがいたように描かれていて、作者は、陸軍に関して、海軍よりも冷たい目でみているような気がしています。
ですから、ドラマが真之中心に描かれると、そうした側面が後景に追いやられるのではないかという懸念もあります。脚本家の意図はどこなのか、もう少し、見ていく必要があるのかもしれません。