時代をつかむ

この間、いろいろな非正規のかたがたのたたかいが報道されていますが、その中の映像で、自動車で出勤してくる労働者に門前ビラをくばるところが出ていたものがありました。
そこで宮寺清一さんの「野分け」(『祭り囃子が聞こえる』(新日本出版社、1983年)所収)の冒頭部分も、自動車出勤の主人公に労働組合の役選のビラが配布される場面だったと思い出し、そこから、自動車産業のなかでおこなわれる労働者差別の問題にきりこんだ、米山志郎さんの「カエルの踊り」(初出は1978年、『現代民主文学短編選』(新日本出版社、1980年)に収録)のところまで連想がいきました。
タイトルの「カエルの踊り」とは、自動車の生産ラインのなかで主人公がするからだの動きを指しているのですが、会社が大きな会社に再編成される中で、労働組合が、その大きな会社の労資協調路線に流れていき、それに納得できない労働者に対して退職強要がおこなわれる事態を描いています。
と、考えたところで、意外と民主主義文学のなかで、自動車産業を題材にした作品が多くはないことに気がつきました。もちろん、広島を舞台にした窪田精さんの『工場のなかの橋』という長編はありますが、短編となると、記憶にあるのは、青木哲郎さんの「踏みとどまる」(1983年)くらいかなという気もします。それだけ、自動車産業のなかでのたたかいの困難さを物語っているのかもしれません。米山さんも、青木さんも、実質的にはその1作のみのように思えます。
ただ、米山さんの作品が、題材となった事件から約10年後に作品になっているようですので、今の状況も、作品となる日が来るのかもしれません。