表と裏

大浦ふみ子さんの『原潜記者』(光陽出版社)です。
表題作と、「介護士」という書き下ろし作品との2作が収録されています。一つは放送局のはなし、もう一つは民間介護施設ではたらく青年労働者のはなしです。
放送局の話は、1960年代から21世紀初頭にかけての時代の変化の中で、地方放送局のなかでも人減らしが行なわれ、非正規雇用が拡大していることが語られます。放送局はかつては若年定年制を公然とおこない(たしか四国あたりの放送局では裁判になって労働者側が勝ったこともあったと記憶しています)、表向きはジャーナリズムの理念を掲げながら、労働者に対しては厳しく当たるという二面性をあらわにしてきました。この作品の登場人物も、そうした流れのなかで生きてきたわけです。
介護労働の厳しさも、現在は徐々に知られてきているのでしょうが、そうした、労働現場の裏側を描こうとする作者の意図は、壮とすべきものでしょう。