むだづかい

津島佑子さんの『あまりに野蛮な』(講談社、全2冊)です。
『群像』に2年ぐらいにわたって連載されていたものが、最近単行本になったものです。
津島さんがずっと追っている、「子どもを亡くした親」という視点が、この作品でもくり返され、1930年代に台湾に赴任した旧制高校の先生の妻がその地で産んだ乳児を亡くすことと、その女性の姪にあたる女性が、2005年に台湾を旅しながら、17年前に交通事故で亡くした当時11歳だった子どものことを考えることという、二筋のストーリーがからみあっていきます。そういうところは、津島作品らしいという感じはします。
台湾というところは、もともと住んでいた先住民族に対して、中国本土からやってきた人たちがいて、さらに日本植民地時代には日本人がその上に君臨していたという、けっこう複雑な事情のある土地なのですが、そうした重層的な構造も、作品の中には生かされています。
ただ、そこの植民地としての台湾の姿が、あまり浮かび上がってこないし、その流れで、現在の台湾に関しても、女性と伯母とのつながりのほうに目が向いていて、先住民族の伝承が作中に使われてはいるのですが、単に親子の関係についての材料に終わっているような気はします。
そういう点では、消化不良の感じがする作品かな、というところでしょうか。