年をとる

『文藝』の話の続きです。
河出は、今回の「世界文学全集」の版元ですから、ここでも池澤夏樹さんが大活躍。江國香織さんや、青山南さんとの対談が載っています。
内容については、前にも書いたようにいろいろと思うところも当然ありますが、こうした企画自体が最近あまりないのですし、過去のそうした全集系統のものは、入手困難になっている(これは日本文学の分野でも同じですね)か、新古書店で投げ売りされているかというありさまですから、そういう意味では、この企画が、商業的にもそこそこの成功はおさめてほしいものだと思います。
さて、江國さんとの対談の中で、池澤さんは、本の大切さをいうのに、中村真一郎さんのエピソードを紹介しています。池澤さんの父親である、福永武彦さんが危篤状態になったときに、中村さんがかけつけたのですが、そのときにも中村さんは、フランス語の小説本をしっかりと持ってきていたのだというのです。
いかにもということで、中村・福永の関係を感じさせるエピソードだと思うのですが、ふっと気がついたのは、福永さんは61歳でなくなられた。いま池澤さんは62歳になっている、ということです。子は父親の年を越えたのです。以前、七掛けの話をしましたが、(調べたら昨年の6月でした)ここでも、年齢の感覚は、そうしたものがあるようです。

おくやみをひとつ。高杉一郎さんが逝去されました。戦前は編集者として宮本百合子の作品の発表に尽力したりしたそうで(百合子さんの「杉垣」のモデルは彼だそうで、たしか青い百合子全集(1979年からでたもの)の月報で、インタビューを受けていたような記憶があります)、その縁もあって、戦後、シベリア抑留から帰国して、宮本百合子の家を訪ねたりもしたそうです。手元にないので正確ではないのですが、そのとき、シベリア体験の話をしていたら、いきなりふすまをあけて宮本顕治さんが顔を出して、「スターリンの悪口を言うな」という趣旨のことを口にしたとかいうのです。当然、百合子さんが生きていたときのことですから、まだスターリンも生きていたときです。そういうことも、時代の風景として、過去のものになっていくのでしょう。