研究の深さ

関谷博さんの『幸田露伴論』(翰林書房)を読みました。学部の卒論が実は露伴だったのですが、その頃といえば、露伴に関する文献もそんなに多くはなく、1978年から再刊されはじめた全集が、テキストとして扱われるくらいであったように思えます。
関谷さんの論考は、なかなか刺激的なものでした。明治20年代の、国会開設の時期に、どのような社会を日本がつくっていくのかに対して、露伴は明確に小説の形で発言をしていたというのが、関谷さんの論の主眼をなしています。個人の欲望を追求する事が、社会の倫理をどのようにつくっていくのか、個人の力を発揮するためには、共同体(社会)はどのような対応をしていかなければならないのか、そうした問題意識が、「風流仏」や「艶魔伝」、「五重塔」などの作品にはっきりと出ているというのです。
全集は当然今ももっているし、一応全部目を通してはいたのですが、最近読み直していなかっただけに、この関谷さんの指摘は、そういう作品もあったのかと、あらためて興味を覚えました。
本体5600円ですが、決して高くはなかったというところです。