苦界というけれど

明治づいているというわけでもないのでしょうが、横山源之助『明治富豪史』(現代教養文庫、1989年、親本は1910年のよし)です。横山は『日本の下層社会』(岩波文庫)で知られる、明治のルポライターで、当時の労働者の姿をえがいた文章で有名なひとです。
この本では、明治の富豪といわれるような人たちが、どのようにして富を蓄積していったのか、について考察しています。もちろん、一般読み物として企画された文章なので、社会科学的な分析があるわけではなく、物語的な筆致で書かれています。その中に、海外に進出する日本企業を紹介した文章があるのですが、シンガポールなどに勢力を張っている「米井商会」という企業は、〈醜業婦〉相手の物品雑貨衣類などを商うことで大をなしたというのです。
そういう女性たちが、シンガポール周辺にたくさん住んでいて、そういう女性たちからその店は大きな利益をあげたというのです。そして、その女性たちは、長崎あたりから来たものが多いとか。
徳永直に、「島原女」とか「女の産地」とかいう作品があるのですが、そこでは、そうして外国に女性を送り出されなければならない人たちと、そうしたものに寄食している者どもの姿が描かれているのも思い出しました。平穏であってほしい暮らしが、少しのバランスのくずれから、そうした世界へと移行していくというのは、現在でも決してあり得ないことではないでしょう。
そういうものを背負いながら、近現代の日本があったのだということは、知っていなければならないことでしょう。