衆寡敵せず

池田一彦さんの『斎藤緑雨論攷』(おうふう、2005年)です。明治の批評家、斎藤緑雨は、鴎外や露伴とともにおこなった創作合評「三人冗語」で知られているというのが現状かもしれませんが、その緑雨についての、研究論文を集成したものです。そういう事情ですから、いろいろと発掘したというような感じがあって、その点ではじめて知ったようなことも多くありました。
緑雨が大阪の渡辺霞亭という人にあてた書簡が紹介されていて、その中で今の文学の世界で、評価できるのは鴎外・露伴・逍遙と批評家では不知庵だという認識がその中で語られています。
紅葉・鏡花というラインと、鴎外・露伴というラインが、やはり明治の文学にはあるようで、どうも前者になじめないという感覚はずっと前からもっていたのですが、緑雨をおもしろいと思って読む人は、そうした感覚を共有できるかもしれません。加藤周一さんの『日本文学史序説』では、露伴と鏡花とをひとくくりにしていますが、そういう分類はやっぱりうなずけませんね。
池田さんは、筑摩の明治文学全集の斎藤緑雨集を読んで、そのおもしろさを実感して、緑雨を研究の題目に決めたと書いています。やはり、1970年代の雰囲気を実感させるエピソードだと思います。