証言

『トゥバ紀行』(メンヒェン=ヘルフェン著、田中克彦訳、岩波文庫、1996年、原本は1931年)です。
エニセイ川の上流の、モンゴルの近くにあって、ソビエトの影響下にあった国、トゥバを訪れた著者の記録です。当時、どのくらいの国が、トゥバを独立国として認めていたのかはよくわかりませんが、いまはロシア連邦に包摂されてしまっている地域です。
遊牧民族の世界を著者はよく観察していて、トナカイの飼育の実態(ときどき野生のトナカイを捕獲して、飼育しているものとかけあわせるのだそうです)や、家族のありかた、ラマ僧の生き方、その中で、新しい文化を根づかせようとする都会で教育を受けた人たち、というように、新しい国のすがたが浮かび上がります。
ソビエト政権の、こうした少数民族に対しての政策は、結局のところ、ロシアの優位を確認させるだけになっていることは、著者も認識しています。その意味では、告発の書でもあるようです。
著者は、ナチスの時代には、ドイツから亡命して最終的にはアメリカに逃れたそうです。時代にほんろうされたともいえなくもありません。