ゆめのはて

室生犀星『哈爾濱詩集・大陸の琴』(講談社文芸文庫、2009年)です。
1937年5月、〈満洲国〉を訪れた犀星が、詩・小説・随筆と、いろいろな作品を残したものをまとめたものです。
小説『大陸の琴』は、大陸浪人みたいな人ばかり出てくる、わりあいむちゃくちゃなもので、内地での〈満洲〉イメージに寄りかかったような感じで、あまりおもしろくありません。その点では、紀行〈駱駝行〉(収録されています)のほうが、犀星の肉声が聞こえてきます。
日中全面戦争の前ということもあって、のんきな雰囲気が全体に流れています。シベリア鉄道が、ほぼ直線でウラジオストックに行く関係上、ソビエトロシアも、〈満洲国〉を事実上承認していたわけですから、かりそめではあっても、〈平和〉だったのかもしれません。そういうのんきさも、今となっては貴重な証言なのでしょう。
そういえば、いっとき、〈工業は大慶に学び、農業は大寨に学ぶ〉とかいって、東北の大慶油田がもてはやされましたが、ほんとうに石油がでていたのでしょうか。疑っては悪いのですが、日本支配下時代には、石炭の話はきいても、石油の話はなかったように思いますので。いや、単に日本が発見できなかっただけかもしれないのですが。もちろん、犀星の作品に、そうした鉱工業がらみの話は出てきません。