翻案

モリエール『いやいやながら医者にされ』(鈴木力衛訳、岩波文庫、2008年新装版)です。
医者のふりをせざるを得なくなった男をとおして、当時の世相を風刺した小喜劇ですが、尾崎紅葉が翻案して、「恋の病」として、発表したと、文庫の解説にありました。
岩波書店が『紅葉全集』を出したのは、いまから20年くらい前だったと思いますが、そこでわかったのは、紅葉はけっこう外国の作品を翻案して、自分の世界をつくっていたことです。たしか、〈森盈流〉(もり・えいる)という匿名で書いて、誰が書いたかを読者に当てさせるという企画もあったようです。紅葉と並び称された露伴にも、『運命』などの中国を題材にした作品は多くあります(翻案はしないでもとの名前をきちんと使っていますけれど)ので、やはり先行するものに影響を受けてはいるのでしょう。小説はやはり、それをささえる社会が、ある程度豊かにならないと生まれてこないものかもしれません。かれらの生きていた19世紀末は、まだまだの時期だったということでしょうか。

宮本徳蔵さんが亡くなったようです。大相撲の八百長発覚を知らずに往生されたのは、しあわせだったのかもしれません。