言行一致

洪吉童伝』(野崎充彦訳、平凡社東洋文庫、2010年)です。
17世紀の朝鮮王朝の人、許いん(たけかんむりに『均』です)の作だと伝えられています(野崎さんは、もっと下った時代だとしています)。
母親が下賎な階層に属するために、差別された主人公が、能力を生かして活躍し、政府を手玉に取り、最後は朝鮮国を離れ、海外の地で王となるという、冒険譚のような物語です。
朝鮮国では、嫡子と庶子との区別がはなはだしかったのだそうです。庶子には科挙の受験資格にも制限があったとか。作者の経験の反映だということです。
けれども、物語の中で、自らが庶子として差別されたにもかかわらず、洪吉童は、複数の女性をみずからの相手とします。それでは、あたらしく自分も〈庶子〉を生み出す危険をつくることになるようです。なのに作者も、それを不思議としないようです。そこを要求するのは、時代的に無理だったのでしょうか。どうもひっかかります。