戦略

斎藤美奈子さんの『妊娠小説』(ちくま文庫、1997年、親本は1994年)です。
斎藤さんは、やはり『モダンガール論』が一番だろうと思うのですが、この作品は、話題づくりとしてはよく考えられていると思います。結局のところ、日本の近代文学が、男にとって都合のよい作品によっていろどられていて、その一つに〈望まない妊娠〉がおこすトラブルを描くものがある、ということなのですから、ジェンダーの観点からみれば、あたりまえのことですし、その面からみれば、斎藤さんが扱わなかった、〈外地における日本人〉の妊娠(というより性)をめぐる作品の存在も加えれば、もっといろいろな発見もあっただろうと思うのです。そこを、適度にひかえて、〈わかりやすく〉整理したところに、斎藤さんのうまさがあるのでしょう。どうやって〈世に出る〉のかを考えなければいけない世の中ということも、認識の底におかなくてはいけないのでしょうか。