似ているけれど

『すばる』4月号の、佐川光晴さんの「おれたちの約束」は、作者がずっとつづけている、〈おれのおばさん〉のシリーズのなかにはいる作品です。
親が犯した犯罪のために、故郷を離れて札幌のおばさんのところに引き取られた高見陽介少年の成長とその周囲の人びとを描く大長編のひとつなので、個々の評価をするわけにはいかないのですが、今回の作品では、中学を卒業して仙台の高校に入学した陽介くんの姿を描きます。
仙台の高校という設定をしたところで、どうしても〈あの日〉をどう経験したのかという問題にかかわらざるを得ません。仙台という固有名詞を出したからには、全くの虚構の世界ですということにもいかないのです。
そこで、作者は、〈原発のない震災〉を作品中に導入しました。秋の文化祭の日に大地震が起きる。それが呼び起こす問題を、陽介はどのように乗り切っていくのかという設定としたのです。そこに、作者の悩みもあったのでしょう。綿矢りささんのこの間の作品も、そうした悩みがもう少し見えていたら、わからなくもなかったのですが、綿矢さんは完全に未来の話にして、現実とのかかわりを消す方向に走ったことが、うまくいかなかった一因ではなかったかと、今では思います。