引き受ける

佐伯一麦さんの『誰かがそれを』(講談社)です。
あとがきによると、10年ぶりの短編集になるようです。実際、文芸雑誌でも、ほんとうに短い短編小説はあまり人気がありませんし、短編集が出版されることも、そんなにあることではないように思えます。
表題作は、主人公がアスベスト禍を取材していたころのことを描いています。佐伯さんの作品を読み続けるとわかるのですが、電気工をしながら小説を書いていた時期、佐伯さんはアスベストを吸い込む環境にいたわけです。それがいまの作品にも反映されているということでしょう。
最初に佐伯さんの作品を読んだのは、20年ぐらい前になるでしょうか。福武書店から出た最初の作品集『雛の棲家』(1987年)を、何年かたってから読んだのですが、文章の手ざわりと、主人公の生活をみつめるすがたに感動したおぼえがあります。『海燕』の新人賞を受賞した作品からして、〈これはほんものだ〉と感じることができました。
これからも、書き続けていただきたいと思います。