語られないもの

ついつい、日本映画専門チャンネルでやっていた、『ハワイ・マレー沖海戦』を見てしまいました。
特撮に関しては、それこそ、『巨神兵東京に現わる』につながる映像画面そのものですから、それはそれとして技術の伝承という側面からみればいいのですが、ああした、軍の公認映画が示す映像世界は、やはりきれいごとになってしまいます。登場人物たちの、土浦の航空隊での訓練の場面が延々と描かれるのですが、もちろん、鉄拳制裁に類する光景はまったく出てきません。当時でも、それは事実として存在していたとしても、『描いてはならない』ことだったのでしょう。国家の秘密とは、そういうものだということです。
けれども、何気ない描写で、一面を切り取るところもあります。機動部隊が外洋に乗り出し、いよいよ明日は攻撃だというとき、杯が酌み交わされます。そのとき、将校のテーブルの上と、兵士のテーブルの上に乗っている食べ物には、明らかな格差があります。もちろん、映像は単に乾杯の場面を映しているだけで、将校の食卓の上にある焼き魚をことさらに強調しているのではないでしょう。けれども、兵士の食卓に魚はないことが、遠くからの映像でみえます。はからずも、というところだったのでしょうか。