へんなあきらめ

フランス語で書く中国出身作家、ダイ・シージエの『バルザック小さな中国のお針子』(新島進訳、ハヤカワ文庫、原著2000年、親本2002年)です。
1970年代前半、中国が「文化大革命」で、知識青年をぞくぞくと農村に送り込んでいた時代に、農村で「再教育」されていた青年たちの物語です。
彼らは、ふとしたきっかけで、西洋文学の訳本を入手します。それをきっかけに、仕立て屋の娘とひとりは恋仲になり、もうひとりはその恋の保護者役を演じて、妊娠した彼女の堕胎を実現させるために努力をするのです。
中国の当時の農村の実情は、以前鄭義の回想録(『中国の地の底で』だったかなあ、日本語訳が朝日新聞社から出ていたと思うのですが)でも読んだことがあるのですが、一方では日中国交回復で中国ブームがおき、パンダのぬいぐるみが人気になった時代に、こうした農村の実態があったことは、記憶しておかなければならないのだと思います。
ただ、作品の最後で、彼女が都会にいってしまうという形でオチをつけたようなところは、少し雑ではないかという感じはします。そこに、作者のある点での妥協があるのではないかという見方もできるでしょう。そこは、この作家が、どんな方向に向かうのかということとも関連すると思います。
あと、「赤足医生」ということばで翻訳がされていましたが、当時は「はだしの医者」という日本語が定着していたとおもうので、訳語はそのほうがよかったように思います。もともとの漢字表記は「赤脚医生」だったはずですし。