統合

井上勝生さんの『開国と幕末変革』(講談社学術文庫日本の歴史18、2009年、親本は2002年)です。
井上さんは、岩波新書の『幕末・維新』も書いていて、それは以前に紹介したと思いますが、この本では、新書につながる、開港のときの幕府の対応は決して屈服ではなかったことや、当時の国際情勢の中では、それなりの選択であったことを論じています。
当時の長州藩が、奇兵隊を組織して、百姓身分を戦闘組織として統合していくところに、今までとはちがった歴史の展開をみています。もちろん、それは、被差別身分の人たちへの苛酷な取り扱いや、抵抗者には容赦ない弾圧を加えたこと、さらには、統合の原理に〈神風〉を使うような非合理性と、その後の日本近代の暗部のさきがけでもあったわけです。民衆のなかのエネルギーと倫理に関しては、安丸良夫さんの研究や、加藤周一さんの『日本文学史序説』での分析もありますが、それを〈国民〉として統合していく長州藩の試みは、よく考えていかなければならないのでしょう。
この本で紹介された19世紀初期の摂津・河内での村の寄り合いが、ある種のブルジョア民主主義的な発展を示していることも、後の自由民権運動の広がりと無縁ではないのでしょうから。