書きたいこと

佐川光晴さんの『牛を屠る』(解放出版社、2009年)です。
佐川さんは、最初の小説が新人賞をとったときには、「大宮市営と畜場」で働いていたのですが、その経験を書いた、回想記といえるものです。
実は、この本を買ったのは昨年の9月ごろだったのですが、その直前に佐川さんが、ある文芸誌に小説を書いていたのです。たしか学校現場を舞台にした作品だったように思うのですが、けっこう大事なことを材料にしているのに、作者はちっとも〈乗って〉いないように感じたのです。なぜだろうと考えているうちに、書店で、この本を見つけ、そういえば、たしか書評がどこかの新聞に載っていたなと思い出し、めくってみました。
すると、けっこうおもしろそうだったので、買ってみたのです。読むまでに、時間がかかってしまいましたが、予想にたがわぬものでした。佐川さんが、本当に書きたいものは、この時代のできごとなのでしょう。仕事をしながら、その経験を材料にして書いていけば、きっと豊かなものを書けるのでしょうが、実際には、佐川さんは、「と畜場」をやめ、専業作家として生きていくのです。
今は、仕事の様相も佐川さんの働いていた時代とは変わっているとのことです。BSE問題などもあるでしょうから、食肉をめぐる環境も、異なっているでしょう。