根は残る

小栗勉さんの『聳ゆるマスト』(かもがわ出版)です。
1980年代のはじめごろ、山岸一章さんが同じ題のルポを書きましたが、小栗さんのこの本は、小説ということで、細部には作者の想像力がはたらいているようです。
タイトルの由来は、1930年代初めに、呉の軍港で、兵隊むけに発行されていた日本共産党の新聞からとったものです。もとの『聳ゆるマスト』は、1932年に合計6号出されたのですが、弾圧の結果、現物は残っていないということです。発行にかかわった関係者も逮捕され、軍隊内の組織は壊滅に追い込まれたということです。
この作品は、その中心にいた阪口喜一郎(1933年に獄死しました)を中心にすえた構成で、彼らが海軍の中の兵隊と士官との格差を告発し、当時進められた中国への侵略に反対していったようすを描いています。
阪口は獄死しましたが、生き残った関係者は、その後も社会運動にかかわり、戦後、村長になった方もいらっしゃるとか。人生を賭けるにあたいすることは、ずっとその人の生き方として残っていくのですね。

ただ、本のつくりとして、つまらない誤植がときどきあります。「あとがき」で、呉の〈大和ミュージアム〉についてふれたところで、特攻兵器が〈回転〉となっているのは、ちょっと。