謙虚であること

池澤夏樹さんの『南鳥島特別航路』(新潮文庫、1994年、親本は1991年)です。
著者が、人間の努力と、自然の大きさとの境界線ともいうべき地域を次々と訪れた記録です。八重山ヒルギ林であったり、白神のブナ林であれ、富山の砂防作業のところとか、岩手の鍾乳洞など、人間の手が届くのかどうかというぎりぎりのところをたずねていきます。著者は、「稲作以前の、言ってみれば縄文的な日本、狩猟採集経済の日本ばかりをずっと見てきたような気がする」とあとがきで書きます。そこに、地球の中で人間ができることの意味について考えるすがたがあるのです。人間が何でもできると考えるのは、ある意味傲慢なことなのかもしれません。
この作品は、交通公社の『旅』誌に最初に掲載され、単行本もJTBから出たそうです。『旅』誌は、今は新潮社に移管され、すっかり女性向けの情報誌になっているようです。この本も、今の新潮文庫の目録にはありません。たまたま見つけたのでよむことができたのですが、こうした本が品切れになるというのも、さびしいものがあります。