神と仏

佐藤弘夫さんの『神国日本』(ちくま新書)です。〈神国〉ということばにまつわる先入観を廃して、その言葉が使われ始めた中世初期の用法を検討しようとした本です。世界宗教としての仏教の存在を基盤として、そのなかでの日本の独自性としての〈神国〉というものだったというのが、簡単なまとめになるのです。
たしかに、神仏分離が強行された現代でも、お寺のなかに稲荷の祠があるというのは別に珍しくもなんともないことですし、社寺が並んで存在していることも、決しておかしくはありません。考えてみれば、〈天部〉というのも、神なのか仏なのかはっきりしないものとしてとらえられているのではないでしょうか。〈七福神〉といわれるように。
そうした、歴史的に起源をさかのぼっていく研究が、一般書として提供されることは、思いこみや先入観にとらわれない、きっちりした歴史観をもつことになるのだと思います。それが、〈歴史〉の皮をかぶったインチキを見分けることにもなるのでしょう。