主体性の回復?

『月光浴』(国書刊行会)を読みました。ハイチの現代作家のアンソロジーです。ハイチといえば、アンナ・ゼーガースやアレッホ・カルペンティエールの作品で少しなじんでいたり、ジャック・ステファン・アレクシス(訳書では「アレクシ」という表記でしたが)の作品、『太陽将軍』(新日本出版社)があるのですが、カリブ海のフランスから独立し、ナポレオンと独立戦争を戦ったその国については、ほとんど知らなかったといってよいでしょう。そうした国の、最近の短編が読めるというのも、日本の翻訳事情に感謝したほうがよいことなのだと思います。
抑圧された女性の視点から書かれた作品が多かったのが印象に残りました。ケトリ・マルスという女性の作家の、「アンナと海」という作品は、夫からひどい仕打ちをされていながら、外見では〈よい妻〉を演じざるを得なかった老女が、瀕死の夫に毒を飲ませることで、自分を取り戻そうと考えていたのに、その計画を実行する前に夫が死んでしまったので、自分の主体性をなくしてしまうという話です。
そういう、運命のいたずら、とでもいうようなところは、どこにでも起こりえるからこそ、ひとつの姿として、訴えかけるものがあるのでしょう。