手駒

井上ひさしさんの『合牢者』(文藝春秋、1975年)です。
明治時代に材をとって、権力者の手駒としてつかわれる庶民の哀歓を描いた作品を集めた短編集です。このころの井上さんの作品には、そうした哀しさを描いたものが多くて、時代物としては『戯作者銘々伝』などもこれに類するものでしょう。その点では、最近書いている、戦時戦後に関係する戯曲とは、すこし趣のちがいも感じるのですが、個人の善意をふみにじる権力や財力の世界というものへの、井上さんの視線はぶれていません。そこは、昔から変わっていないのだなと、あらためて思います。