泣ける話

漢文で、忠犬の話はいくつかあるのですが、そのなかで、犬が銀を守って死んでしまう話があります。けっこう泣ける要素があるかと思うので、原文と訳(試訳ですが)をあげておきましょう。

秦中有商於外者、帰挈一犬以行。抵黄河。行嚢在船、候人満乃渡。偶腹痛欲瀉。亟上岸、犬随往。有布袋裹銀五十両、解置地、戯向犬曰、看好。少頃、舟子以人満風順、連催登舟。帆已満張、一瞬而開矣。商入舟、方悔忘銀与犬。然日暮不能再渡。明晨縦往、安得前銀尚在。遂帰。明年、渡河復経前地、慨然曰、銀已無存、犬何帰乎。往尋、見犬皮覆地。検之、白骨一堆耳。商憫焉、掘地埋其骨、骨尽則前銀尚在。蓋犬守銀不離、甘餓死、覆尸銀上耳。商泣瘞之、為立塚。

秦の地から外に出て商売をする人がいた。秦に帰ろうとして、一匹の犬を連れて移動していた。黄河に着き、荷物は船に置いて、乗客が増えて出航するのを待っていた。たまたま腹痛で便意を感じた。すぐに上陸すると、犬もついてきた。布袋に銀五十両を入れておいたのを、地面に置き、気軽に犬に言った。〈番をしておいてね〉しばらくすると船頭が、お客さんもいっぱいになったし風向きもよいので船に乗るように呼びかけていた。帆も風をはらみ、すぐに出航しそうになった。商人はあわてて乗船して、そのあとで銀と犬とを置いてきたことを悔やんだ。しかしもう日暮れで再び渡ることもできない。明朝行ったとしてもどうして銀が残っているという保障があるだろうか、あるわけがない、と考えてそのまま帰ってしまった。翌年、黄河を渡り再びこの地を訪れると、ため息をついて言った。「銀はもうなくなっているだろうし、犬は誰に飼われているだろう」行ってみると、犬の毛皮が地面に広がっているのが見えた。調べると、白骨が山のようになっていた。商人は悲しくなり、地面を掘って骨を埋めてやろうとすると、骨の下には銀がそのまま残っていた。思うに、犬は銀を守って離れず、餓死してまで銀の上に乗って守っていたにちがいない。商人は泣きながら骨を埋め、犬のために立派な墓をつくった。

 黄河の幅と流れを考えると、こういうこともあったのでしょうね。