意識過剰

矢澤高太郎さんの『天皇陵』(中公選書、2012年)です。
現在の天皇陵古墳のあてはめをめぐる問題点をあげ、さらにはそうした当局の姿勢だけでなく、学界の現状に対しても、今のままではかりに発掘が可能になってもよいことはないので、もっと日本社会全体が成熟しなければならないと述べます。
著者は読売新聞の記者だったということで、同業他紙に対する意識も強く、高松塚古墳の壁画発見のニュースの報道のときも、自分のところが遅れをとったことを悔やんでいます。そうした職業上のことでの、ライバル意識はわかるのですが、現代の日本社会の状況や学界のありように対してのものの言い方は、やや慷慨に走っているようにみえます。徳川光圀が指揮した下野の古墳の発掘の態度を称揚するのはかまわないのですが、そこから現代批判にいくのも、少し飛躍を感じます。著者の取材歴のなかで、いろいろなことを経験した結果ではありましょうが、少し、感情的ではないでしょうか。