今も昔も

ドナルド・キーンさんの『百代の過客』(金関寿夫訳、朝日選書、1984年)です。
平安時代から江戸時代までの日本人の書いた(和文、漢文は問わず)日記・紀行を材料にして論じたものです。有名どころのものもあれば、ほとんど誰も読まないような文を取り上げていて、過去の豊かな遺産のありどころを感じさせます。
その中で、17世紀に書かれた「東めぐり」という文章があります。陸奥国から仕事をもとめて江戸にきた男の日記的な記録のようなのですが、この記録の筆者は、自分の行動を記録するときにも、過剰な形容をもちいたり、有職故実的な記述に酔ってみたり、本来の目的であったはずの、仕事探しはどうなったのかについて、ほとんど触れるところはないということだそうです。
キーンさんの記述を読むと、この記録、ほとんど今のブログのような、個人の感想を語るもののようです。日本人の自分語りの伝統は、この時代にもしっかりとあったのでしょう。