現実密着

日本思想大系『近世科学思想』(全2冊、岩波書店、1971-72年)です。
上巻には農業と治水、下巻は天文と医学という形で、蘭学がはいる以前の江戸時代の動向を、基本文献にさかのぼって収録しています。
もちろん、蘭学以前とはいえ、中国や、キリシタン時代の西洋という、大きな文明の影響を受けないことはないので、そこをどのように受容しながら、日本の現実にあった体系をつくっていくかに、当時の人たちの関心はあったようです。
農業や治水、天文(暦学)や医術は、はっきりと効力が問われる分野です。それだけに、現実にあわない理論は、何の役にも立たないということでもありましょう。もちろんそれは、現実を追認するものではありません。稲作中心の農村に棉の栽培を勧めたり、地動説とまではいかなくても地が地球であることを理解させたり、五行説にもとづく臓器の理解は病気を治すのには無関係だと言い切ったり、そうした形で、新しい現実をつくろうとした人たちが、この時代を生きていたことは、知っておいていいと思います。
現実にふれあってこそ、新しい現実をつくりあげることができる、ということは、今でも生きているでしょう。