他力本願

日本思想大系の『近世仏教の思想』(岩波書店、1973年)の中から。
この本は、浄土系と法華系のものが収められています。その中で、真宗門徒の逸話を集めた、『妙好人伝』のなかに、こういう話がありました。
加賀の金沢に住む、ある女児の話です。その子が口にかさができたとき、「茶袋の古くなったものを黒焼きにしたものを塗ればいい」と教わり、捜し求めているときに、女の子の伯母が、「茶袋が手に入るまでは、念仏で痛みをやわらげることができるでしょう」というと、その子は、「病は薬にて治すべし。念仏を現世の為に用るはおそれ多かるべし」といって、伯母のすすめを断ったのです。
信仰とは現世の利益のためにあるのではない。現世の病理をなおすには、それにふさわしい薬がある、というのは、宗教のありかたとして、いたく真っ当なものでしょう。子どもであったがために、本質をついたことばを出すことができたのです。世直しには世直しの方法がある、それは宗教とは別のものだから、信仰を持つ人も持たない人も、世直しのために共同できるということになります。宗教の側からこういう発想がでるところに、論理の深化もあるのでしょう。