空白

徳永直『結婚記』(河出書房、1940年)です。
短編集で、表題作は主人公が結婚相手に会いに、東北まで行く話です。その他、満洲に雑誌特派員として行ったときの経験を書いた作品や、出征する若者を送る作品など、当時の作者がおかれている立場を反映したような作品集です。
その中で、「他人の中」という、作者の若い頃、米屋に丁稚奉公していたときの体験に材をとったものがあります。すでに、『八年制』(新潮社、1939年)という作品集に収録されていたものですが、加筆して再度のおつとめをはたしました。
加筆の意味は、そのうち別に考えたいのですが、この作品、伏字がけっこうあるのです。それが、社会運動がらみというのではなく、性的なことにかかわるものが多いのです。それは、『八年制』版でも『結婚記』版でも変わりません。そこをうまく伏字なしに修正することはできなかったようです。
そういえば、むかし徳永の戦前の作品を大学の図書館で探していたら、「こいつの作品は無意味な伏字が多い」という趣旨の落書きがされていた雑誌をみたことを思い出してしまいました。徳永にはそういう側面もあったのですね。