忌避

『コレクション戦争と文学』(集英社)のなかの、〈軍隊と人間〉の巻(2012年)には、16作の作品が収められているのですが、そのなかに、戦後〈勤労者文学〉の担い手として知られた浜田矯太郎の作品が収録されています。主人公が、兵役からのがれるために、精神異状をきたしたふりをして、苦労の末に前線から逃れて病院送りになるという話です。主人公は国府台の陸軍病院で、幸いにも〈回復途上にある〉と判断されて、偽りの症状を演じていたことをとがめられずにすんだのですが、偽りを貫こうとして失敗したある兵士は、死に追いやられてしまいます。
『勤労者文学』に載った作品だというと、労働現場のことを書いたのかと思っていたのですが、こうした軍隊生活に材をとった作品もあったのですね。
けれども、このアンソロジーのなかで、広義の兵役逃れを題材にした作品が、これだけではないことも、注目すべきことなのでしょう。帰還兵が再召集されそうだというので妻が夫の目をつぶしたり、みずから指を切り落としたり、醤油を大量に飲んでみたり、はからずも気管支ぜんそくで即日帰郷となったりと、収録されているだけでもこれほどのものがあるのですから、実際には相当多くの作品も、事例もあったのではないでしょうか。
実際には、地域の人びとの目が光っているのですから、単純ではないのでしょうが、それだけ兵役の実態についてのひどさはあったのでしょう。海軍でも、いくつかの艦艇は、兵士が弾薬に火をつけて爆沈させた事例があるようですから。