好みの発露

池澤夏樹の世界文学リミックス 完全版』(河出書房新社、2011年)です。
夕刊フジ』に掲載された、世界文学全集の宣伝もかねて、池澤さんが収録作品をとっかかりに、世界文学のさまざまな作品を紹介していくコラムだったそうです。
文学全集のたぐいが、最近は古本屋でも一山いくらのかごにいれられてしまうのが当たり前の時代に、全30冊の全集をつくってしまったというのは、ある意味すごいことだったのでしょう。もちろん、池澤さんの個人編集が売りの企画ですから、もっと別の作品がはいってもよかったのではないかと思うこともあります。
たしか、フラバルの『わたしは英国王に給仕した』を読んだときにも思ったのですが、ナチスよりもスターリニズムのほうがよろしくないと、登場人物が考えているように受け取れるところがありました。そう考えると、ファシストナチスドイツに対して、姿勢として正面からたたかうという作品は、意外と少ないように思えるのです。それが現在の世界の流行だとしたら、やはりちょっと考えてしまいます。ドイツ語作品が少ないのも、そのせいでしょう。そういう選択からもれた作品を、それこそ一山いくらの世界から、取り戻していけば、けっこうおもしろいものだと思います。