遺志

井上ひさし司馬遼太郎対談『国家・宗教・日本人』(講談社文庫新版、2008年、親本は1996年)です。
司馬遼太郎最晩年の対話で、行われたのは1995年です。
戦後50年という節目もあって、日本の今までを検証していこうという意識が、おふたかたにはあるようです。
たおとえば、植民地支配に関しても、「『朝鮮半島を支配したことがあるじゃないか』と言われれば、昔の話だけれども『申し訳なかった』と頭を下げていかなければならない。頭下げるのはカッコ悪いと言うけれども、いくら頭を下げてもいいんだ、カッコ悪いもヘッタクレもない」(p155)と司馬さんは言い切ります。
こうした発言をみると、司馬さんを持ち上げる人たちとは、実際の司馬さんとはこの時期には差があると思ったほうがいいのでしょう。『坂の上の雲』の映像化を許さなかったというのも、こうした考えのもとになされたことでしょう。
にもかかわらず、ああしたドラマを作ってしまった放送局の責任とは一体なんだったのかとも考えてしまいます。ひとりの作家の、考え方の変化も、よくよく見定めなければいけません。