新興芸術

今年のセンター試験の小説は井伏鱒二の「たま虫を見る」です。1920年代の、いわゆる〈新興芸術派〉と呼ばれたころの作品です。
横光利一たちの〈新感覚派〉は、けっこう自覚的な集まりであったのですが、〈新興芸術派〉は、どちらかといえば、出版社の側でつけたようなグループで、実際に流派としての動きはあまりなかったようです。井伏の作品にも、かつてセンターで出題された「朽介のいる谷間」がダムに水没する集落のさまを描いたように、多面的な関心をみせています。
この「たま虫」は、たま虫の出現が、自分の人生の間の悪さとかかわっているという、やや自虐的な作品で、そこに初期井伏のスタンスが出ているのだとはいえましょう。その点では「山椒魚」を思わせないでもない、というところです。