ゆがみ

辻井喬さんの『司馬遼太郎覚書』(かもがわ出版、2011年)です。
ここ3年ばかり、ドラマの関係で司馬遼太郎や『坂の上の雲』に関してのさまざまな掘り起こしがおこなわれました。歴史の関係の方面からの問題提起や、文学作品としてどう考えるか、ドラマそのものの仕立てはどうなっているのか、そうした多面的な検討が必要になるのだと思います。
辻井さんは、1960年前後に、司馬遼太郎と同じ同人雑誌に参加していたのだそうです。そうした個人的なつながりもあって、司馬作品への深い思い入れがあるようです。
併録された新船海三郎さんの論考もあわせて、『坂の上の雲』で司馬遼太郎をわかったつもりになってはいけないこと、司馬自身も、作品を書いていくうちに変化していった面も大きいことがわかります。そうなると、ドラマが生前映像化を拒んでいたにもかかわらずに制作し、なおかつあのようなできあがりになったことを、つくる側の問題としてもう少し考える必要がありそうです。

ところで、『坂の上の雲』のあとがきに、徳冨蘆花の『寄生木』が、陸軍の序列優先の愚劣さを描き出した作品として紹介されていたので、ずいぶん昔に岩波文庫で復刊されたときに読んで、おもしろくない作品だと感じたことを思い出してしまいました。今読み返せばどうだかわかりませんが、すぐに手放してしまったので、もう手元にありません。