ポジティブに

アンナ・ゼーガース『ほんとうの青色』(K.小森、小林昌子訳、ワイマル友の会東海支部、1987年、原著は1967年)です。
訳者クレジットで、小森さんの名前がイニシャル表記しかみつかりませんので、こう書かせていただきます。
私家版のようなのですが、東京の古書店で発見しました。連絡先は愛知県立大学のドイツ語研究室になっています。

舞台はメキシコ、青い陶器をみずから焼いて、市場で売っているベニートという人物が主人公です。彼の青い陶器は、人気があって、固定客もついています。ところが、戦争(第2次大戦)の影響で、その染料が入手できなくなるというのです。ベニートは、親戚の人から、親戚の親戚が、鉱山の鉱滓からその染料を作り出しているという情報をもらい、それを買いにいこうとメキシコ横断の旅に出るのです。
いろいろな遍歴の果てに、ベニートは染料を作っているところにたどりつきます。それを通して、当時のメキシコ社会の一端や、その中で生きている人びとの生活に、作者は目を向けています。一見目標があやふやなものでも、少しずつ前進していくことで、世界がひらけていくのです。
そういう意味で、いい作品だと思うのですが、作者がこれをメキシコを舞台にしたというのは、当時のDDR社会では、こうした主題を作品にすると、リアルではなかったということでしょうか。そうだとすると、考えてしまいます。